「ラオスのこども」カレンダー2022対談 (後編) 子どもたちが持つ無限の可能性とチカラ 相馬淳子さん
「ラオスのこども」カレンダー2022の紹介と、カレンダーに掲載したラオスの子どもたちの絵画をさらに楽しんでもらうために、子どもたちと創作活動をしたジャスミン先生こと相 馬さんにお話を聴く対談企画。後編の今回は、ホアンカオ学校で創作活動を始めてからの、子どもたちの反応や変化について、ふり返っていただきます。(前編はコチラ)
「ラオスのこども」カレンダーを購入された方は、どうぞお手元のカレンダーをめくりながら、対談をお聞きください~
(渡邉)(前編でお話された)絵の具で色作り実験の盛り上がりをみると、新しい展開が起きそうな予感ですね。「絵の具」のように描く材料を変えてみて…とか色々工夫しながら、活動にトライされていったんですね。
(相馬)そうですね。当時みんなが小さい絵を描いていて、もっと画面いっぱいに描いて欲しいな、と思っていました。学校とも相談し、5月の端午の節句に「こいのぼり」を作ることになりました。学校で5mの白い布を3枚用意してもらいました。
(渡邉)おおぉぉ~ 5mって、かなり大きいですよね!
(相馬)相当大きいです!それをホアイホンセンターで、筒状に縫い合わせてもらいました。そのうちの小さめの1枚は、小学生が担当。布に人数分の区切りをつけて、担当のスペースに、各自が自由に描いていってもらいました。今まで紙に描いていた時よりも、かなり大きいので仕上げるのは大変!周りなんてみていられない、と夢中になって一生懸命描いていた感じでした。その大きいスペースのなかでも、やっぱり小さく描いちゃう子もいたんですけど、それはそれでいいかな~と思って。
(渡邉)そしたら小学生たちは、みんなで分担して一体のこいのぼりを協力して描き上げたんですね。
(相馬)幼稚園生も参加したいとのことで、一番大きいお父さんこいのぼりに、ホアンカオ学校に関わる人全員の手形でウロコを作りました。下は0歳児から、上は60代まで!
(渡邉)わぁ、いいですね~
(相馬)そして日本の暦ではありますが、5月には、学校の庭の木の間にロープを張って。本当に飛んでいる、泳いでいる鯉のぼりのようで、子供の日を祝いました。
(渡邉)これまでのお絵描きっていうのは、鉛筆など線で描くことが多かったけど、こいのぼり制作で、手形を押したり面で描く、表現するっていうのをやってみて、絵の具もそうですけど、なんか子どもたちにとって、今までの「絵画」っていうのと違う体験ができたかもしれないですよね。
(相馬)そうかもしれないです。あと、ホアンカオ学校の子たちは、都会の子でベタベタしたものを触るとか、汚れる、っていうのに抵抗がある子もいました。はじめ、絵の具に手を付けられない子がいて、結構びっくりしたんですけど。
(渡邉)へぇ~意外!子どもって、もともと泥んこ遊びとか、ベタベタ、ベチャベチャしたもの触るのが大好きだと思うんですけど…ラオスでも首都のヴィエンチャンになると都市化が進んでいて自然が周りになくて、そういう触ったり・汚れたりっていうのを経験してないって子が増えてきてるんですかね…
(相馬)それでも、米粉で糊を作り、絵の具を入れて、手で練りながら描くテーマなどもやるうちに苦手だった子も、だんだん慣れていきましたね。
(渡邉)触った感覚とか、手の感触とか、そういうのも込みで、創作活動って感じですね。他にも印象に残っている活動はありますか?
(相馬)クラスの先生の絵を描いたテーマも印象に残っています。寄付のボタンや毛糸などが学校にあり、それを使って先生の日のプレゼントにしようという授業です。
(渡邉)カレンダーの2月の作品ですね。
(相馬)はい。こちらからは、ボタンや毛糸をどう使って…っていうのは一切言わなくて、「何でも自由にココにあるのを使って先生の絵を描いて~」って言って。で、この「せんせいの絵」は、私がすごく好きだった授業で、子どもたちが、ほん~っとに素晴らしい先生の作品を作ったんですよね。
「このボタンとこの毛糸を使って、これかぁ~(驚!)」って感じで、もう私、感動しちゃって。ホントみんな自由に描いていました。
(渡邉)この活動をしたのが、ラオスの「先生の日」に絡めてだったので、2017年の10月ですよね?
(相馬)そうですね。その頃になると、もう紙いっぱいに大きく描くようになっていて…
(渡邉)1年も経たないうちにすごい変化ですね!その後、ターニングポイントになった授業ってありますか?
(相馬)ターニングポイントになったといえば、等身大の絵ですね。
(渡邉)カレンダーの表紙の絵や、3月、8月に掲載されている絵ですよね。
(相馬)あれは、さらに自分たちの好きなように描いてもらいたいっていうのがあってチャレンジしました。
(渡邉)あの作品は、大きな長い模造紙に実際に寝っ転がって、友達が協力して身体の輪郭線を型取りして作っていますよね。
(相馬)そうです。最初、小学生のクラスで行いました。先生も含めて、お友達の型取り作業が、笑いが止まらない感じで…。身体の縁をなぞって輪郭線を描いていくときに、浮き出てきた、ヘンテコりんなライン(輪郭線)を見て、みんなで笑い転げて…。一人一人やる度にそれをくり返して、結局、全員が型取りするだけで、丸1日かかりましたね。
(相馬)その等身大の体の輪郭線をもとに、自分に好きな洋服を着させたり、好きなものを描き込んでいってもらって、完成させていきました。その間は30分ぐらいかな、私が歩いて廻る足音しか聞こえないぐらい、し~んと静まり返って制作してましたね。
(渡邉)そしたら、色々描き入れて、絵の具で色を塗って仕上げていくときは、子どもたちはものすごい集中してやってたんですね。
(相馬)子供が活動していると思えないくらい集中していました。私は邪魔をしないように、、、写真撮っていました!
(渡邉)そうだったんですね~
(相馬)それまでの活動で、気になっていたのは、先生たちが、子供たちの絵を直してしまうことでした。小学校の先生たちとは、一緒に活動をすることが多かったので、常々私の方から、見守るようにしよう!と話していました。先生たちも一緒に作品を作ることが多かったこともあり、子供の作品に手を出さないようになっているようでしたね。
(渡邉)じゃぁ、先生たちの方も変わってきたんですね。
(相馬)そうですね。ただ、時々新しく来る先生たちが、手を加えちゃうことがあって。渡邉さんに、こないだ話したみたいに…。
(渡邉)等身大の絵の時に、男の子が最後に描こうと思ってとっておいた顔の「目」を、先生が描いちゃったっていうのですよね?
(相馬)そういうのがたまにあって、すごく残念だな~って思ったことはありますね。
(渡邉)相馬さんと一緒に創作活動してきた先生たちは、手を出さないことの大切さを理解しているから大丈夫なんでしょうけど、やっぱりそれを知らない先生は、良かれと思って手を入れちゃうんでしょうね。
(相馬)先生に描かれちゃった男の子が、私のところにやってきて小さな声で「あの先生が、僕の絵に目を描いた!」って目にいっぱい涙をためて訴えてきて、その時、本当に子どもの作品を全て受け入れて尊重したいな、とすごく強く感じました。今でも、あの子のあの時の顔が目に浮かびます。
(渡邉)それって裏を返せば、その子にとっては、絶対に自分が描き上げたい、それだけ大切なものだったってことですよね?これは自分の絵だ、自分が表現するんだっていう強い気持ちがあるというか。たぶんこれが、かつて同じ構図で描かされていた時の絵だったら、先生が手を加えても、そこまで泣きたくなるような気持にはならなかったんじゃないかな、と思うんですよ。「僕の絵だ」って、そういうふうに思える気持ちが芽生えたってことですよね。
(相馬)そうですね。等身大の絵は、完成したあと学校内に天井から下げて展示をしていました。みんな、絵を見上げてとても満足そうでした。お父さんお母さんが来たら作品と一緒に記念撮影してもらったりしていましたね。やっぱり「自分のもの」って感じだったんですよね、きっと。
(渡邉)子どもが自分の作品と一緒に写っている写真もみせてもらいましたが、どの子も本当に嬉しそうで、そして誇らしげな表情でしたね。
それにしても、カレンダーを見ていてもつくづく思うのが、子どもたちの表現力がホントにすごいなぁと。
(相馬)同感です!私は、題材や材料を提供しただけでした。何も言わない、見守る、それが私のやったことかな、と思います。逆にホントに凄い作品が見られて、そこに立ち会えたことがありがたかったです。
子どもの無限の可能性をホアンカオ学校での活動で見せてもらった気がしています。
(渡邉)同じ題材でも、その子その子で全然違った捉え方をしてますもんね。カレンダーの6月と7月は「スイレンの花」で、ホアイホンセンターの同じ睡蓮の花を描いているんだけど、こんなにも違うのかって描き方をしていますし。このカレンダーには掲載されていませんが、スイレンの花は、他にもタンポ(綿を丸めて布で包んだもの)を使って描いた作品もありましたよね。
(相馬)小学生だと割と(提案された)題材を理解できますが、幼稚園生の作品は想像を超えてて…例えば、数字が好きな子がいたのですが、作品が全部数字でできてるとか。
(渡邉)へぇ~~ 数字を組み合わせて描いてるんだ。数字がホントに好きなんですね。
(相馬)そうなの。描く作品全部が数字で、ひたすらに数字が描かれているとか…
(渡邉)へぇ~~面白い!!幼稚園生の作品でいうと、4月のラオス新年の時期に咲くドーククーンという黄色い藤のような花を描いた作品も、こうきたか~!と独創的でしたよね。
(相馬)思いっきり、力強く、自信を持ってあれを描いていましたね、彼は。
(渡邉)彼のなかには、ちゃんと見えてるんですよね、きっと。
他にも子どもたちの才能や、何か気づかされることはありましたか?
(相馬)特に、「アイスクリーム屋さん」を作った時ですね…
(渡邉)あ~~ カレンダーの裏表紙にのせた写真のですよね?
(相馬)そうです。小学生クラスは、1年生から5年生まで、10人弱でしたが、すごくチームワークが良かったですね。お互いの得意なことも知っていて、誰が何をやったらいいか、みんなで分担して作り上げていった姿は、それはまぁ~お見事で。
(渡邉)これって、制作したのは小学生ですか?アイスクリーム屋さんを作ろうって決めたのも、子どもたち?
(相馬)そうです。近所の工場の廃材で太い筒をもらいました。共同制作をいつかやりたいと思っていたので、子どもたちに提案を持ちかけました。それぞれが、作りたいものの下絵をまず描いてもらって、みんなで投票して決めたんです。
(相馬)満場一致でアイスクリーム屋さんでした。その下絵には、屋台のアイスクリーム屋さんが描かれていて、絵を再現するために、下絵をもとに必要な制作物を描きだしました。誰がどこの担当になるかは、学年が上の子がリーダーになり、話し合いで決めて、創作活動が始まりました。
(渡邉)なるほど~。カレンダーの写真をみると、アイスクリーム屋さんの屋台、周りに生えている木、屋台で売ってるアイスクリームと色々な制作物がありますもんね。
(相馬)丸々2日かけて、他の授業を潰してもらって、ホントに集中して作りましたね。
(渡邉)へぇ~~ これ2日で作っちゃったんですね。すごいチームワーク!
(相馬)そうなんですよ!午後に1時間だけ他の授業が入って、それが終わったら「早く作りたい~!」ってみんな走って飛んで来ました。
(渡邉)笑笑笑。 屋台に「アイスクリーム屋」さんの看板を掲げたり、売り物のアイスクリームも細かいディテールまで作り込んでいますよね。
(相馬)アイスクリームは、以前の活動で、小さい風船を膨らませてそこに漉き紙を貼る張り子を作成していたので、ある子が「アイスは風船と紙で作ればいいよ!」って。
(渡邉)へぇ~ コレ、風船で作ってるんだ~
(相馬)アイスクリームのコーンも紙を円錐形にして作って、次々に色んなアイディアが出てきましたね。
屋台として、安定させるのは難関でした。屋台の土台はダンボールで支柱にした筒がかなり厚みがあったので、竹串を釘にして、土台にトンカチで留めていきました。結構ちゃんと竹串を刺さないと留まらなかったので、それも子どもたちが頑張って作業していましたね。
(渡邉)こちらは、制作したのはいつ頃ですか?
(相馬)たしか2017年の12月頃だったと思います。
(渡邉)活動を始めて1年後には、もう子どもたちは、自分で考えて協力して自分たちでモノを作り上げるところまで出来たんですね。すごいなぁ~
(相馬)すごいですよね~ 作り上げた時の、子どもたちの興奮と満足気な表情が、忘れられないです。屋台が完成後は幼稚園生がアイスクリームを買いに来ることになり、お金も作っていましたね。幼稚園生が順番に並んで、小学生がお店の人になって売って。作り物のアイスクリームだけど、行列になって、順番待ちしていましたね。
(渡邉)作っただけじゃなくて、それを使って遊ぶ才能もすごいなぁ。
(相馬)しばらくは、ずっと遊んでましたね~。最高学年の小学生の男の子は、お店の係になってたから、自分はアイスクリームを買えなくって。お母さんにきいたら、まだ他の子が来てない朝早くに学校に来て、アイスクリームを買ってたって(笑)
(渡邉)それだけ子どもたちにとって、インパクトに残る活動だったんですね~
相馬さん、今日は活動をふり返ってみていかがでしたか?
(相馬)こうして、改めて振り返ると、その活動での子供たちの色々な姿が思い出されます。今、学校を離れて少し時間が経ったので、またみんなとやりたいなぁ、学校でこういう活動が続いているかな、と思ったりしますね。
先生たちの中には、創作活動が得意な人もいて、子どもの頃に田舎でやっていた遊びを教えてもらう活動もありました。バナナの葉っぱを使って作る飾り(ラオスでは新月の時にお寺や家に飾る)作りでは、作り方を知らない先生もいて、先生どうしで教え合ったりして。そんなふうに、先生たちのなかにも(活動の)独自の題材はすでにお持ちだから、そういう持ってるもの身近にあるものを使って、ぜひ続けていってもらいたいな~と思いますね。私も習いたい!
(渡邉)そうですよね。活動に使える題材・材料は身近な暮らしのなかに、そしてラオスの先生たちの経験のなかにもありますよね。
こちらのブログでのカレンダー紹介は、今回までとなりますが、この後2月からは、相馬さんの方で、さらに情報発信してくださるとのことで…。
(相馬)はい。2月からは、私が主催しているラオスの手仕事を紹介している「PaTu」(ラオス語で「扉」の意味)のFacebookページで、その月のカレンダーに登場する作品の創作活動のようすや子どもたちの反応など、カレンダーに掲載されていない作品や活動も含めてエピソードを紹介していきたいと思っています。
(渡邉)作品の裏側を聴くと、より一層、作った子どもたちを近くに感じることができますよね。毎月の配信、私も楽しみにしています。「ラオスのこども」のFacebookページなどでもシェアさせていただきますね。本日は、本当にありがとうございました!
相馬さんが、ラオスを離れる少し前の2019年5月末、当時ラオス事務所に赴任したばかりの渡邉が、ホアンカオ学校におじゃまして、子どもたちが制作した作品の展示を見学し、相馬さんの創作活動の授業にも参加しました。
「ジャスミン先生!」相馬さんの姿を見つけるなり駆け寄ってきて、あっという間に子どもたちに囲まれる相馬さん。「ねぇ、今日は何するの?ジャスミン先生!」と目をキラキラさせて、次々に尋ねる子どもたち。活動の説明を食い入るように聴き歓声を上げる姿。作業しているときの真剣なまなざし。「出来たよ~!」と作品をみせに来る時の誇らしげな顔。きっと、この子たちにとって、相馬さんと一緒に創作活動をする時間は、まるで魔法のようにとってもとっても楽しい充実した時間なんだろうなぁと、私も本当に嬉しい気持ちになったのを覚えています。
その時、事務所に持って帰って撮影した作品の数々が、今年のカレンダーを彩っています。作品をみていると、どの子も描くことの楽しさ、表現することの喜びに満ち溢れているのが伝わってきます。
子どもたちは、とてつもない可能性とチカラを持っているーそれを遺憾なく発揮できるように、私たち大人が出来ることは何なのか、それを考えていけたら…と思います。
【ラオス事務所:渡邉】
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