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2022年1月26日 (水)

「ラオスのこども」カレンダー2022対談 (後編) 子どもたちが持つ無限の可能性とチカラ  相馬淳子さん

「ラオスのこども」カレンダー2022の紹介と、カレンダーに掲載したラオスの子どもたちの絵画をさらに楽しんでもらうために、子どもたちと創作活動をしたジャスミン先生こと相 馬さんにお話を聴く対談企画。後編の今回は、ホアンカオ学校で創作活動を始めてからの、子どもたちの反応や変化について、ふり返っていただきます。(前編はコチラ

「ラオスのこども」カレンダーを購入された方は、どうぞお手元のカレンダーをめくりながら、対談をお聞きください~

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(渡邉)(前編でお話された)絵の具で色作り実験の盛り上がりをみると、新しい展開が起きそうな予感ですね。「絵の具」のように描く材料を変えてみて…とか色々工夫しながら、活動にトライされていったんですね。

(相馬)そうですね。当時みんなが小さい絵を描いていて、もっと画面いっぱいに描いて欲しいな、と思っていました。学校とも相談し、5月の端午の節句に「こいのぼり」を作ることになりました。学校で5mの白い布を3枚用意してもらいました。

(渡邉)おおぉぉ~ 5mって、かなり大きいですよね!

(相馬)相当大きいです!それをホアイホンセンターで、筒状に縫い合わせてもらいました。そのうちの小さめの1枚は、小学生が担当。布に人数分の区切りをつけて、担当のスペースに、各自が自由に描いていってもらいました。今まで紙に描いていた時よりも、かなり大きいので仕上げるのは大変!周りなんてみていられない、と夢中になって一生懸命描いていた感じでした。その大きいスペースのなかでも、やっぱり小さく描いちゃう子もいたんですけど、それはそれでいいかな~と思って。

(渡邉)そしたら小学生たちは、みんなで分担して一体のこいのぼりを協力して描き上げたんですね。

(相馬)幼稚園生も参加したいとのことで、一番大きいお父さんこいのぼりに、ホアンカオ学校に関わる人全員の手形でウロコを作りました。下は0歳児から、上は60代まで!
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(渡邉)わぁ、いいですね~

(相馬)そして日本の暦ではありますが、5月には、学校の庭の木の間にロープを張って。本当に飛んでいる、泳いでいる鯉のぼりのようで、子供の日を祝いました。

(渡邉)これまでのお絵描きっていうのは、鉛筆など線で描くことが多かったけど、こいのぼり制作で、手形を押したり面で描く、表現するっていうのをやってみて、絵の具もそうですけど、なんか子どもたちにとって、今までの「絵画」っていうのと違う体験ができたかもしれないですよね。

(相馬)そうかもしれないです。あと、ホアンカオ学校の子たちは、都会の子でベタベタしたものを触るとか、汚れる、っていうのに抵抗がある子もいました。はじめ、絵の具に手を付けられない子がいて、結構びっくりしたんですけど。

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(渡邉)へぇ~意外!子どもって、もともと泥んこ遊びとか、ベタベタ、ベチャベチャしたもの触るのが大好きだと思うんですけど…ラオスでも首都のヴィエンチャンになると都市化が進んでいて自然が周りになくて、そういう触ったり・汚れたりっていうのを経験してないって子が増えてきてるんですかね…

(相馬)それでも、米粉で糊を作り、絵の具を入れて、手で練りながら描くテーマなどもやるうちに苦手だった子も、だんだん慣れていきましたね。

(渡邉)触った感覚とか、手の感触とか、そういうのも込みで、創作活動って感じですね。他にも印象に残っている活動はありますか?

(相馬)クラスの先生の絵を描いたテーマも印象に残っています。寄付のボタンや毛糸などが学校にあり、それを使って先生の日のプレゼントにしようという授業です。

(渡邉)カレンダーの2月の作品ですね。

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(相馬)はい。こちらからは、ボタンや毛糸をどう使って…っていうのは一切言わなくて、「何でも自由にココにあるのを使って先生の絵を描いて~」って言って。で、この「せんせいの絵」は、私がすごく好きだった授業で、子どもたちが、ほん~っとに素晴らしい先生の作品を作ったんですよね。
「このボタンとこの毛糸を使って、これかぁ~(驚!)」って感じで、もう私、感動しちゃって。ホントみんな自由に描いていました。

(渡邉)この活動をしたのが、ラオスの「先生の日」に絡めてだったので、2017年の10月ですよね?

(相馬)そうですね。その頃になると、もう紙いっぱいに大きく描くようになっていて…

(渡邉)1年も経たないうちにすごい変化ですね!その後、ターニングポイントになった授業ってありますか?

(相馬)ターニングポイントになったといえば、等身大の絵ですね。

(渡邉)カレンダーの表紙の絵や、3月、8月に掲載されている絵ですよね。

(相馬)あれは、さらに自分たちの好きなように描いてもらいたいっていうのがあってチャレンジしました。

(渡邉)あの作品は、大きな長い模造紙に実際に寝っ転がって、友達が協力して身体の輪郭線を型取りして作っていますよね。

(相馬)そうです。最初、小学生のクラスで行いました。先生も含めて、お友達の型取り作業が、笑いが止まらない感じで…。身体の縁をなぞって輪郭線を描いていくときに、浮き出てきた、ヘンテコりんなライン(輪郭線)を見て、みんなで笑い転げて…。一人一人やる度にそれをくり返して、結局、全員が型取りするだけで、丸1日かかりましたね。

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(相馬)その等身大の体の輪郭線をもとに、自分に好きな洋服を着させたり、好きなものを描き込んでいってもらって、完成させていきました。その間は30分ぐらいかな、私が歩いて廻る足音しか聞こえないぐらい、し~んと静まり返って制作してましたね。

(渡邉)そしたら、色々描き入れて、絵の具で色を塗って仕上げていくときは、子どもたちはものすごい集中してやってたんですね。

(相馬)子供が活動していると思えないくらい集中していました。私は邪魔をしないように、、、写真撮っていました!

(渡邉)そうだったんですね~

(相馬)それまでの活動で、気になっていたのは、先生たちが、子供たちの絵を直してしまうことでした。小学校の先生たちとは、一緒に活動をすることが多かったので、常々私の方から、見守るようにしよう!と話していました。先生たちも一緒に作品を作ることが多かったこともあり、子供の作品に手を出さないようになっているようでしたね。

(渡邉)じゃぁ、先生たちの方も変わってきたんですね。

(相馬)そうですね。ただ、時々新しく来る先生たちが、手を加えちゃうことがあって。渡邉さんに、こないだ話したみたいに…。

(渡邉)等身大の絵の時に、男の子が最後に描こうと思ってとっておいた顔の「目」を、先生が描いちゃったっていうのですよね?

(相馬)そういうのがたまにあって、すごく残念だな~って思ったことはありますね。

(渡邉)相馬さんと一緒に創作活動してきた先生たちは、手を出さないことの大切さを理解しているから大丈夫なんでしょうけど、やっぱりそれを知らない先生は、良かれと思って手を入れちゃうんでしょうね。

(相馬)先生に描かれちゃった男の子が、私のところにやってきて小さな声で「あの先生が、僕の絵に目を描いた!」って目にいっぱい涙をためて訴えてきて、その時、本当に子どもの作品を全て受け入れて尊重したいな、とすごく強く感じました。今でも、あの子のあの時の顔が目に浮かびます。

(渡邉)それって裏を返せば、その子にとっては、絶対に自分が描き上げたい、それだけ大切なものだったってことですよね?これは自分の絵だ、自分が表現するんだっていう強い気持ちがあるというか。たぶんこれが、かつて同じ構図で描かされていた時の絵だったら、先生が手を加えても、そこまで泣きたくなるような気持にはならなかったんじゃないかな、と思うんですよ。「僕の絵だ」って、そういうふうに思える気持ちが芽生えたってことですよね。

(相馬)そうですね。等身大の絵は、完成したあと学校内に天井から下げて展示をしていました。みんな、絵を見上げてとても満足そうでした。お父さんお母さんが来たら作品と一緒に記念撮影してもらったりしていましたね。やっぱり「自分のもの」って感じだったんですよね、きっと。
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(渡邉)子どもが自分の作品と一緒に写っている写真もみせてもらいましたが、どの子も本当に嬉しそうで、そして誇らしげな表情でしたね。
それにしても、カレンダーを見ていてもつくづく思うのが、子どもたちの表現力がホントにすごいなぁと。

(相馬)同感です!私は、題材や材料を提供しただけでした。何も言わない、見守る、それが私のやったことかな、と思います。逆にホントに凄い作品が見られて、そこに立ち会えたことがありがたかったです。
子どもの無限の可能性をホアンカオ学校での活動で見せてもらった気がしています。

(渡邉)同じ題材でも、その子その子で全然違った捉え方をしてますもんね。カレンダーの6月と7月は「スイレンの花」で、ホアイホンセンターの同じ睡蓮の花を描いているんだけど、こんなにも違うのかって描き方をしていますし。このカレンダーには掲載されていませんが、スイレンの花は、他にもタンポ(綿を丸めて布で包んだもの)を使って描いた作品もありましたよね。

(相馬)小学生だと割と(提案された)題材を理解できますが、幼稚園生の作品は想像を超えてて…例えば、数字が好きな子がいたのですが、作品が全部数字でできてるとか。

(渡邉)へぇ~~ 数字を組み合わせて描いてるんだ。数字がホントに好きなんですね。

(相馬)そうなの。描く作品全部が数字で、ひたすらに数字が描かれているとか…

(渡邉)へぇ~~面白い!!幼稚園生の作品でいうと、4月のラオス新年の時期に咲くドーククーンという黄色い藤のような花を描いた作品も、こうきたか~!と独創的でしたよね。

(相馬)思いっきり、力強く、自信を持ってあれを描いていましたね、彼は。

(渡邉)彼のなかには、ちゃんと見えてるんですよね、きっと。
他にも子どもたちの才能や、何か気づかされることはありましたか?

(相馬)特に、「アイスクリーム屋さん」を作った時ですね…

(渡邉)あ~~ カレンダーの裏表紙にのせた写真のですよね?

(相馬)そうです。小学生クラスは、1年生から5年生まで、10人弱でしたが、すごくチームワークが良かったですね。お互いの得意なことも知っていて、誰が何をやったらいいか、みんなで分担して作り上げていった姿は、それはまぁ~お見事で。

(渡邉)これって、制作したのは小学生ですか?アイスクリーム屋さんを作ろうって決めたのも、子どもたち?

(相馬)そうです。近所の工場の廃材で太い筒をもらいました。共同制作をいつかやりたいと思っていたので、子どもたちに提案を持ちかけました。それぞれが、作りたいものの下絵をまず描いてもらって、みんなで投票して決めたんです。

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(渡邉)それで「アイスクリーム屋さん」に。

(相馬)満場一致でアイスクリーム屋さんでした。その下絵には、屋台のアイスクリーム屋さんが描かれていて、絵を再現するために、下絵をもとに必要な制作物を描きだしました。誰がどこの担当になるかは、学年が上の子がリーダーになり、話し合いで決めて、創作活動が始まりました。

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(渡邉)なるほど~。カレンダーの写真をみると、アイスクリーム屋さんの屋台、周りに生えている木、屋台で売ってるアイスクリームと色々な制作物がありますもんね。 

(相馬)丸々2日かけて、他の授業を潰してもらって、ホントに集中して作りましたね。

(渡邉)へぇ~~ これ2日で作っちゃったんですね。すごいチームワーク!

(相馬)そうなんですよ!午後に1時間だけ他の授業が入って、それが終わったら「早く作りたい~!」ってみんな走って飛んで来ました。

(渡邉)笑笑笑。 屋台に「アイスクリーム屋」さんの看板を掲げたり、売り物のアイスクリームも細かいディテールまで作り込んでいますよね。

(相馬)アイスクリームは、以前の活動で、小さい風船を膨らませてそこに漉き紙を貼る張り子を作成していたので、ある子が「アイスは風船と紙で作ればいいよ!」って。

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(渡邉)へぇ~ コレ、風船で作ってるんだ~

(相馬)アイスクリームのコーンも紙を円錐形にして作って、次々に色んなアイディアが出てきましたね。
屋台として、安定させるのは難関でした。屋台の土台はダンボールで支柱にした筒がかなり厚みがあったので、竹串を釘にして、土台にトンカチで留めていきました。結構ちゃんと竹串を刺さないと留まらなかったので、それも子どもたちが頑張って作業していましたね。

(渡邉)こちらは、制作したのはいつ頃ですか?

(相馬)たしか2017年の12月頃だったと思います。

(渡邉)活動を始めて1年後には、もう子どもたちは、自分で考えて協力して自分たちでモノを作り上げるところまで出来たんですね。すごいなぁ~

(相馬)すごいですよね~ 作り上げた時の、子どもたちの興奮と満足気な表情が、忘れられないです。屋台が完成後は幼稚園生がアイスクリームを買いに来ることになり、お金も作っていましたね。幼稚園生が順番に並んで、小学生がお店の人になって売って。作り物のアイスクリームだけど、行列になって、順番待ちしていましたね。

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(渡邉)作っただけじゃなくて、それを使って遊ぶ才能もすごいなぁ。

(相馬)しばらくは、ずっと遊んでましたね~。最高学年の小学生の男の子は、お店の係になってたから、自分はアイスクリームを買えなくって。お母さんにきいたら、まだ他の子が来てない朝早くに学校に来て、アイスクリームを買ってたって(笑)

(渡邉)それだけ子どもたちにとって、インパクトに残る活動だったんですね~
相馬さん、今日は活動をふり返ってみていかがでしたか?

(相馬)こうして、改めて振り返ると、その活動での子供たちの色々な姿が思い出されます。今、学校を離れて少し時間が経ったので、またみんなとやりたいなぁ、学校でこういう活動が続いているかな、と思ったりしますね。
 先生たちの中には、創作活動が得意な人もいて、子どもの頃に田舎でやっていた遊びを教えてもらう活動もありました。バナナの葉っぱを使って作る飾り(ラオスでは新月の時にお寺や家に飾る)作りでは、作り方を知らない先生もいて、先生どうしで教え合ったりして。そんなふうに、先生たちのなかにも(活動の)独自の題材はすでにお持ちだから、そういう持ってるもの身近にあるものを使って、ぜひ続けていってもらいたいな~と思いますね。私も習いたい!

(渡邉)そうですよね。活動に使える題材・材料は身近な暮らしのなかに、そしてラオスの先生たちの経験のなかにもありますよね。
こちらのブログでのカレンダー紹介は、今回までとなりますが、この後2月からは、相馬さんの方で、さらに情報発信してくださるとのことで…。

(相馬)はい。2月からは、私が主催しているラオスの手仕事を紹介している「PaTu」(ラオス語で「扉」の意味)のFacebookページで、その月のカレンダーに登場する作品の創作活動のようすや子どもたちの反応など、カレンダーに掲載されていない作品や活動も含めてエピソードを紹介していきたいと思っています。

(渡邉)作品の裏側を聴くと、より一層、作った子どもたちを近くに感じることができますよね。毎月の配信、私も楽しみにしています。「ラオスのこども」のFacebookページなどでもシェアさせていただきますね。本日は、本当にありがとうございました!


相馬さんが、ラオスを離れる少し前の2019年5月末、当時ラオス事務所に赴任したばかりの渡邉が、ホアンカオ学校におじゃまして、子どもたちが制作した作品の展示を見学し、相馬さんの創作活動の授業にも参加しました。
「ジャスミン先生!」相馬さんの姿を見つけるなり駆け寄ってきて、あっという間に子どもたちに囲まれる相馬さん。「ねぇ、今日は何するの?ジャスミン先生!」と目をキラキラさせて、次々に尋ねる子どもたち。活動の説明を食い入るように聴き歓声を上げる姿。作業しているときの真剣なまなざし。「出来たよ~!」と作品をみせに来る時の誇らしげな顔。きっと、この子たちにとって、相馬さんと一緒に創作活動をする時間は、まるで魔法のようにとってもとっても楽しい充実した時間なんだろうなぁと、私も本当に嬉しい気持ちになったのを覚えています。

その時、事務所に持って帰って撮影した作品の数々が、今年のカレンダーを彩っています。作品をみていると、どの子も描くことの楽しさ、表現することの喜びに満ち溢れているのが伝わってきます。
子どもたちは、とてつもない可能性とチカラを持っているーそれを遺憾なく発揮できるように、私たち大人が出来ることは何なのか、それを考えていけたら…と思います。
【ラオス事務所:渡邉】

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2022年1月24日 (月)

「ラオスのこども」カレンダー2022対談 (前編) ラオスの子どもたちのアートに出逢うまで 相馬淳子さん

今年のNPO「ラオスのこども」オリジナルカレンダーは、ラオスの子どもたちの絵画があふれるアート満載のカレンダーになっています。
今回は、そんな素敵な作品が生まれた背景を、ホアンカオ学校で子どもたちと一緒に創作活動に取り組んだ、ジャスミン先生こと相馬淳子さんに、活動のきっかけ、経緯、子どもたちの反応・変化について、カレンダー制作を担当したラオス事務所駐在員の渡邉が、前編・後編2回にわたり、お話をうかがっていきたいと思います。

「ラオスのこども」カレンダーを購入された方は、どうぞお手元のカレンダーをめくりながら、対談をお聞きください~

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(渡邉)相馬さん、本日はどうぞよろしくお願い致します。まずは、相馬さんがラオスに来て活動することになったいきさつについて、順番に教えていただけますか?

(相馬)はい。私はラオスに行くまでに、夫の仕事の関係で色々な国に滞在する機会があり、そこで、現地の人たちが作る素晴らしい織物に出逢ってきました。アフリカのガーナ(2000~03年)では、地方の男性たちが王様のために織る「ケンテ」というファブリックや、東南アジアのバングラデシュ(2007~13年)では、少数民族「マニプリ族」の織物に触れました。とっても丁寧に作られた素晴らしい織物なのに、現地では安く買い叩かれたり、納品までのスピードを求められるため、売る場所や機会が国内外にない状態でした。そこで、自宅で販売会を開いたり、現地の人と交流したり、NPO FiLCという団体を通じ、日本の高校とも一緒に商品開発するなど交流活動をしてきました。

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バングラデシュ自宅でのマニプリ族のクラフト販売会(右が相馬さん)

(渡邉)なるほど~。相馬さんの最初の海外との接点・交流は、織物を通じてだったんですね。

(相馬)そうなんです。その後、帰国してから、東京都港区の「女性とフェアトレードの会」に所属して、7か国それぞれの国のものを扱う女性たちが集まり販売会をやっていて、私は引き続きバングラデシュの織物を紹介していました。その団体メンバーのなかに、ラオスのことを担当している女性がいらしたのです。

(渡邉)ここで、ラオスとの接点が出てきましたね。

(相馬)はい。彼女が支援していた「サオバン」(ラオスでハンディクラフト事業をしている団体)のラオス人メンバーが来日した際、アサバアートスクエアでクラフトのイベントを開催しました。ラオス人の彼に「織物習いたいのだけど…」と話していたら「ラオスにおいでよ!ラオスじゃ織物は普通にやってるよ~」と言われ紹介してくれた中に「ラオスのこども」代表のチャンタソンさんが運営する「ホアイホンセンター」もありました。
だから、いつかラオスに往ってみたいなぁ~と思っていたのです。

(渡邉)今、「アサバアートスクエア」の名前も出てきましたね。アサバアートスクエアの始まりは、横浜の金沢区で1968年より浅葉和子先生が主催する子どものデザイン教室と聞きました。今は、子どものデザイン教室は浅葉弾さんが代表となり、様々な芸術の展示やイベント開催、地域の芸術祭企画などを展開する、地域のアートコミュニティスペースです。

昨年には「ラオスのこども」カレンダー2022記念として、相馬さん主催で開催した展示イベントの会場・協賛もしてくださいました。
アサバアートスクエアと相馬さんとのつながりは、サオバンのクラフトイベントの時からだったのですか?

(相馬)実は、アサバアートスクエアとのつながりは、もっと前から、1998年からです。私の実家が横浜市金沢区で、帰省した際に、私の母と長女が散歩しているときにアサバアートスクエアを見つけてお教室で遊んで来たと興奮していました。あまりに楽しそうだったのでデザイン教室に体験入学し、里帰りするたびに娘が教室に通いだしたのが始まりです。

(渡邉)それがきっかけなんですね~ おばあちゃんとのお孫さんとのお散歩で偶然の出会いだったとは。

(相馬)娘は通っていくうちにさらに気に入って、デザイン教室の企画で、山梨県増穂への合宿がありました。3歳になりたての娘が「自分も行く!」といってきかないんです。それを聞いていた浅葉和子先生が、自分が責任を持つからと車に乗せて娘を一人で連れて行って下さって。

(渡邉)すごい!まだ3歳だったんですね。でも娘さんとしては、どうしてもみんなと一緒に行きたかったんだ。それぐらいアサバアートスクエアでの体験は、楽しいものだったんでしょうね。

(相馬)そうなんです。その後、下の2人の子も続いてデザイン教室に通うようになって。海外を転々としていたため、私の子どもたちは地域の友達が少ないのですが、アサバアートスクエアがいつも「帰ってくる場所」になっていました。

(渡邉)いいですよね、そういう居場所があるって。そしてお子さんを通じて相馬さん自身も、アサバアートスクエアに関わるようになっていったのでしょうか?

(相馬)子どもが作品を持って帰ってきたり、デザイン教室の話をしてくれるのを聴いたりしていて一緒にワクワクしました。私は中学校の理科の先生だったのですが、それとはまったく違う教育がアサバにはあって、「こんなところで育てたらどんなにいいだろう」という想いでいました。だから、自然な流れでデザイン教室のアシスタントとして働くようになりました。

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アサバの子どもデザイン教室でアシスタント(奥中央が相馬さん)

(渡邉)どんな教室でしたか?

(相馬)毎回の授業が、「よろこび」に満ちているのです。子どもたちがホントに自分のやりたいことをやって、満足した顔で帰っていきました。その姿をみていると、仕事というより、一緒にその場にいれたことにワクワクし子どもたち(の感性)が開いていく感じに、刺激をもらいました。創作活動ってこんなに楽しい面白いものなのだということを、教えてもらいました。

(渡邉)アサバのデザイン教室のコンセプトは、「子供の本来もつ可能性をものづくりの喜びと自由な空間の中で育む教育」を目指していますもんね。そこでの体験が、ホアンカオ学校での創作活動の原点になっている訳ですね?

(相馬)結果的にはそうなのですけど、私は美術を専門に勉強したことはないし、当初は美術を教えるつもりはなく、ラオスでは、中学で理科教師をしていた経験を活かして、実験活動をさせてもらおうと思っていました。

(渡邉)それで、「ラオスのこども」ラオス事務所の併設図書館での、実験教室に繋がっていくんですね。
当会代表のチャンタソンのことは知っていたんですか?

(相馬)いいえ。実は知らなかったのです。織物の職業訓練センター「ホアイホンセンター」の代表がチャンタソンさんということは、サオバンの方からも教えてもらっていました。これも偶然ですが、夫が出張でラオスに行くことになり、話を聞くようになりました。そして、タイミングが合い、ホアイホンセンターで織物を学びたいと、ラオスに1年間移住することにしました。そして、ラオスに往く前に、どこか実験教室をできるような処はないかなと、たどり着いたのが「ラオスのこども」のラオス事務所にある図書館でした。当時の駐在の政岡さんに連絡を取り、ラオス到着後、活動を始めることになりました。
 そして、アサバのアートスクールを退職する際に、ラオスでは「ラオスのこども」の図書館で実験教室をすることになった、というお話をしました。その際、浅葉代表が、「その団体確か、チャンタソンさんっていう人の団体ではないかしら?」と。

(渡邉)アサバアートスクエアの代表、浅葉和子さんは、1996年に「ラオスのこども」の前身の「ラオスの子供に本を送る会」の専門家派遣プロジェクトで、現地の子供たちに図画工作ワークショップを実施されていらっしゃいますもんね。(ニュースレター8号6頁
ホントに、知らないうちに色んなところで繋がっていた感じですね~

(相馬)そうなんです。不思議なご縁ですよね。だから、安心してラオスに向かうことができました。

(渡邉)2016年の9~12月に実施された「ラオスのこども」図書館での実験教室は、どんなかんじでしたか?

(相馬)初日は、子どもたちが引き気味で、なかなか寄ってきてくれませんでした。ラオスに来たばかりで、ラオス語が全然出来ないし、子どもたちも「なんだ?この人?」みたいな感じで(笑)。
手始めに折り紙をやったのですが、すでに「ラオスのこども」の活動でお馴染みで、子どもたちは興味を示さず。そして、2回目は「ヒンメリ」を作ってみました。

(渡邉)「ヒンメリ」って、北欧の麦わらと糸で作る三角形を立体的に組み合わせた、モビールのような飾りですよね?

(相馬)そうです。ストローに針で糸を通して作っていきました。すると、ラオス事務所スタッフのチャンシーが、とっても楽しんでくれて、その日は、ほぼチャンシーとやっていました(笑)。

(渡邉)そうでしたか。チャンシーは手先が器用で、折り紙も色んなのを折れるんです。だからそういう「ものづくり」は、彼女のなかでヒットしたのかもしれないですね。

(相馬)その次のモビール作りも、チャンシーがまたホントに楽しんで、周りにだんだん子どもが集まってくるようになって。その後、実験を始めていきました。
段ボールを叩いて空気の圧で大砲のようにする「空気砲」を作って、ロウソクの火を消したり、的作りしてそれを倒したり、倒れないようにするにはどうすればいいか考えたり…とみんなそれぞれに楽しんでやってましたね。
その後、「表面張力」を使った実験として、シャボン液を作ってそれを水の中に落としていく実験をしました。シャボン玉の表面張力が強いので、玉が水の中で割れずに、タピオカのように丸く残っていきます。すると、スタッフのセンやバンロップがハマったみたいで。

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「ラオスのこども」図書館での実験教室

(渡邉)これまではチャンシー(女性)だけ興味を持っていたのが、男性スタッフも関心を持ちだしてきたんですね。

(相馬)結構難しいので、集中して一生懸命。次の週に行ったら、また今週も表面張力実験がしたいって。

(渡邉)なんか目に見える形で、つぶつぶのタピオカみたいなのが出来るのが、すごく面白かったんですよね、きっと。

(相馬)そうなんですよね。そういった実験系のものは、子ども・大人関係なく、スタッフやお客さんも本当に楽しんでやっていましたね。「ラオスのこども」図書館は、昼休みに子どもたちがやってくるので、純粋に「楽しむ」というかたちでやっていました。私は学校の先生をしていましたから、どうしても「どういう仕組みでなるのか」と教えたくなっていたのが、この活動では、ラオス語が喋れなかったというのもあり、理由を教えたり説明したりではなく、子どもたちの活動を見守るだけ。子どもの可能性を信じて、「楽しむだけでいいんじゃん!」っていうのは、すごく新鮮な体験でした。

(渡邉)ラオス事務所の図書館では、だいたい何回ぐらいされたのですか?

(相馬)毎週水曜日にやっていたので、10回以上はしていたと思います。12月には、チャンタソンさんが日本大使夫人と図書館を訪問してくれました。

(渡邉)その時に、初めてチャンタソン代表に会われたんですね。

(相馬)そうです。チャンタソンさんは、一緒に実験に参加してくれて「こんな面白いなら、学校でやって!」ということになり、それで2017年の1月から早速、チャンタソンさんが運営するホアンカオ学校-ホアンカオ(稲穂)保育園・幼稚園・小学校に、ボランティアで教えに行くことになったのです。

(渡邉)そうでしたか。では、最初は、実験教室というかたちでホアンカオ学校に入られたんですね?

(相馬)はい。小学校の子たちを中心に実験教室を、ということだったのですが、幼稚園・保育園の子もいたので、実験はまだ難しいかな…、と思い、創作活動も始めました。すると、創作活動の方がずっと楽しくなって、そっちの方がメインになっていきました。

(渡邉)ホアンカオ学校では、週3行かれていたということで、沢山のプログラムをされていらっしゃいますよね?

(相馬)はい。ラオス在住が1年間の予定が結局は3年になり、2019年の6月までで、記録をみると計108回やっています。

(渡邉)以前に、相馬さんに実施した創作活動のリストを見せていただいたことがあるんですが、実に多彩なプログラムをされていて。このカレンダーにも、1月・5月の「鳥のコラージュ」と点描や、2月のボタンや毛糸で描かれた「せんせいの絵」、3月・8月の「等身大の型取り画」など、ちょっと工夫を凝らした活動内容になってますよね。

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カレンダー1月の作品

(相馬)コラージュも毛糸とボタンを取り入れたのも、初めの頃、「描けない~」「できない~」と手が止まってしまうことが多かったからなのです。材料があることで、遊んでいるうちにできた作品になっていきました。

(渡邉)今、出来上がったカレンダーをみていると、表紙の絵をはじめ、すごくダイナミックで独創性のある作品ばかりですが、最初の頃は、子どもたちは、そこまで描ける状態じゃなかったんですね?

(相馬)たぶん、子どもたちの中には誰しもが本来持つ才能っていうのはそれぞれあったと思います。初めの頃は、「思ったように、描いていいよ」と言っても、家や山とか、周りをみて描いているようでしたね。

(渡邉)どうしたらいいか分かんない?って感じでしょうか?「ラオスのこども」の図書館に来る子どもたちも、塗り絵が大好きだったりアニメのキャラクターを描いたり、絵本の画をまねして描いたりする光景はよく見かけたのですが、自分で自由に好きな絵を描くのはあまりしないです。
それから、「同じものを描く」っていうと、私もラオスの小・中学校でよく見かけたのが、教室の壁に貼ってある絵が、みんな同じ構図で描かれているんですよね。ラオスの田園風景っていうので、山があって、そこから川が流れていて、周りに田んぼや畑があって、それを耕している人がいて…と、どの教室にも、同じ絵が並んでいて。

(相馬)そうそう!あと不思議なのがみんな、お家を描くときに斜め45度に描くじゃない?

(渡邉)あれって、なんか教科書とかにそう描かれているんですかね?家はこうみたいな?立体的に描く方法みたいな…

(相馬)それから、みんな紙の隅っこに、小さく、小さく描く?

(渡邉)あぁ、それも分かります。画面いっぱい大きく使って描かずに縮こまって描いちゃってること多いですよね。あと、線も真っすぐ描かないとって言われているのか、定規を使って描いてる子が結構いて、びっくりした覚えがあります。

(相馬)きっとお家では自由に描いたりしていると思うけれど、学校ではあまり描かないのかな…
それで、材料を変えてみようと絵の具を使うことを始めました。ホアンカオ学校の小学生で、まずは色作りをやってみました。 紫を作るには、何色を混ぜたらなるか?先生たちも知らないようだったので…

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色づくり実験

(渡邉)何色と何色を混ぜたら出来るか、って子どもと先生と一緒になって、みんなで試して、実験しながら探していったんですね。

(相馬)みんなで予想を立ててまさに実験になりました。作りたい色が出来た時は、わーっと歓声が上がって、先生たちは、熱心にメモをとっていました。
それから、絵の具を使うときのセッティングは、どのクラスも同じになるように、日本の図工の時のやり方・ルールを先生たちにも共有しました。
筆の使い方とか、バケツと雑巾を用意して、ちゃんと敷くものがあって…というは、回数を重ねて覚えていった感じです。


このあと、ジャスミン先生は、色々工夫をしながら、ラオスの子どもたちと創作活動に取り組んでいくことになります。この続きは後編で
【ラオス事務所:渡邉】

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2022年1月 7日 (金)

2022年ラオスのこども 引き続きどうぞよろしくお願い致します

遅くなりましたが、、、
サバイディピーマイ(新年明けましておめでとうございます)
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<朝日ではなく、夕日ですが・・・手前はメコン川です>

ラオスのお正月は4月ですが、近年は「インターナショナル ニューイヤー」としてラオスでも新年のお祝いをすることが増えました。
コロナ禍の前、ヴィエンチャンで年越しをした際には、あちらこちらでカウントダウンパーティをしていたり、午前0時に花火があがったりと、とても賑やかでした。
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<カウントダウンパーティの準備中>


ラオスでのコロナ感染状況は、残念ながらなかなか改善されていません。
ただ経済状況を維持するために、徐々に都市間の移動制限などが解除されてきています。
また、学校についても、9月の新学期から閉鎖したままだったのですが、最近になり、地域や学校毎に様子をみながら、対面授業が開始されつつあります。
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<2021年の新規感染者数の推移>

ラオス事務所は、今年も1月3日から稼働しています。
今週は、ヴィエンチャン県にて、延期していた「図書館応用研修」*を実施しました。

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<日本の専門家はオンラインで参加しました>


「図書や図書館を授業で活用する」という取り組みは、受講するラオスの一般の先生達にとっては初めてのこと。
最初は難しい表情をしていましたが、グループ実習を終えると「今度授業で実践してみたい!」という力強い声も聞かれました。
参加者の意欲や熱意が感じられたことが嬉しく、今後の実践に繫がって欲しいと願っています。
ラオスの皆様も日本の皆様も、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

*「図書館応用研修」の内容についてはコチラを参照

【東京事務所:赤井】

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